Vol.7 九州・番外編

Part 2

Part.1 徹底ガイド「くじゅう連山」〜とっておきの歩き方、教えます

Part.2 出演者インタビュー〜福岡のアウトドアと「ラリーグラス」

くじゅう連山、福岡のローカルな山の魅力とは

ARC'TERYXが日本の美しいフィールドを紹介する「Backyard」。今回、九州の魅力的なフィールドをナビゲートしてくれるのは、福岡のアウトドアショップ「ラリーグラス」の浦周平さんと田村友樹さん。

Part.1では九州の山好きたちに愛されるくじゅう連山の魅力をさまざまな角度からご紹介。Part.2では近くの里山でのクライミング朝練に密着し、福岡のローカルな山やラリーグラスについて、おふたりに語っていただきました

Part.2 
出演者インタビュー〜福岡のアウトドアと「ラリーグラス」


出演者インタビュー1・・・・・・・・・・・・・
浦 周平(ラリーグラス代表)

1979年、福岡市生まれ。高校時代はスキー選手として国体に出場。北海道で10年間を過ごしてから福岡に戻ってラリーグラス入社。2019年に代表取締役社長に就任。夏は登山、トレイルランニング、沢登り、クライミング。冬はテレマークスキーでバックカントリーを楽しんでいる。


10年間の北海道暮らしで再認識した登山の魅力

――はじめての本格的な登山を覚えていますか。

 

:子どもの頃です。小学校低学年だった思いますが、父に連れられ双子の妹と一緒に行ったくじゅうが最初です。たしか長者原から入って法華院温泉に泊まったのですが、なにしろ初めて自然のなかを歩いたので、植物や花や虫を見つけて妹と二人でキャッキャ言いながら、父にくっついて歩いたのを覚えています。

 

――子どもの頃の登山は楽しかった思い出ですか。

 

:いや、それが実はただしんどいだけで楽しくはなかったです。家業が登山用品店なので土日も仕事。だから家族旅行もたいてい山かフィールドでした。父の日課はトレーニングがてら近所の里山を走りに行くことで、休みの日は毎朝付き合わされたんですよ。それもあってなおのこと、山に対してはイヤな印象しか持てなかった。だから、まさか自分がこんなに山好きになるなんて、思ってもみなかったことです。

――山好きになったきっかけはなんですか。

 

:大学が北海道だったので、父が店のツアーで大雪山系に来るときに、歩荷要員として手伝うことになりました。しばらく登山から離れていたので、ほんとに久しぶりでした。山自体が非日常じゃないですか。空気もロケーションも違う。そんななかをゆっくり歩くことが、じわじわ楽しくなっていった。そこからですね。キチンと山登りを始めようと思ったのは。

 

――北海道から九州に戻ったとき、九州の山をどう思いましたか。

 

 浦:九州って標高の高い山がないんですが、北海道と違ってクマがいない。そこに気を張らなくていいので、なんて気楽な山なんだろうって(笑)。また、雪が降らないのでテレマークスキーでバックカントリーを滑ることができなくなって、その寂しさは少しあります。


街と自然の距離感の近さは福岡の大きな魅力

――今回のように、早朝クライミングはよく行くのですか?

 

:そうですね。火曜日が定休日なので、そのタイミングに合わせて「今度はどこに行こうか」とみんなで話をしています。少ないときは二人、多い日は五人くらいのときもあります。もともと山が好きで店に入ったスタッフが多く、なかには店に入ってから山を始めましたという人もいます。

――店から岩場までは小一時間前後の距離。

 

:そうですね。店からはクルマで40分くらい。そこから山道を歩いて小一時間です。表側から入ると、市街地に隣接した里山として、多くの人に親しまれている山です。で、今回のように裏手に入ると、沢沿いに3カ所ほど岩場が姿を現します。

 

――どんなルートがありますか。

 

:一つの壁に10から15本くらいのルートがあります。ルートとしては比較的やさしいグレードなんですが、実際に登ってみるとホントにそのレベルかな? っていう……。グレードは辛めかもしれませんね。

――開店前の朝練なので、けっこうあわただしいですね。

 

:そうですね。今回もそうですけど、すべてバタバタで、常に追われている感じ。でも、登り始めると楽しくて、ギリギリまで遊んじゃうんですよ。もう少し、計画性を持って遊ぶことができればなと思います。

 

――いつも、ああやって走って帰ってくるんですか。

 

:はい。走って帰らないことは……今までないですね(笑)。

――そのほかの福岡近郊の山のことを教えてください。

 

:福岡近郊では、佐賀との県境にあるせ脊振(せふり)山系が有名です。脊振山が標高1,055mでほかは700から900m台の山ですが、端から端まで723kmあるんです。縦走するもよし、トレランでもいろいろなルートが取れる。遊び方もバラエティに富んでいるんですね。暑い時期には沢登りを楽しんでいます。

 

――沢登りのルートは豊富ですか。

 

:何本もあります。そこそこの滝もありますし、泳がないと抜けられないゴルジュもある。店のイベントでも沢登りで行きますが、しっかり満足してもらえます。

 

――今回感じたのは、福岡は大都市と自然が近いこと。

 

:そうなんです。それは大きな魅力だと思っています。その点では札幌が有名ですが、福岡は山も近いし、海もある。もっとアウトドアで盛り上がってもいいと思っています。それに北海道と違って、クマもいませんしね(笑)。


店のポリシーは「一番の遊び人集団である」こと

――「ラリーグラス」はどんな店ですか。

 

:ラリーグラスは父が立ち上げた店で、創業が1976年。僕よりも3歳ほど年上です。名前の由来は、父が遠征で行ったネパールで見たシャクナゲ。その美しく咲く様子に感動して、自分で立ち上げた店の名前にしたというわけです。今は登山とスキーを中心にしつつ、最近はキャンプにも注力してきました。スキーは九州で販売している店はウチしかなくなて、僕らもやめるわけにはいかないので、しっかり販売しています。

――若い社長として、どんなコミュニケーションを心がけていますか。

 

:北海道では秀岳荘という老舗登山用品店で5年間勤務していたのですが、福岡に帰ってきてラリーグラスに入社したときには、僕が一番年下。諸先輩に山に連れて行ってもらったり、いろいろ教えていただきました。今も、店長をはじめ3人の年上スタッフから若い人まで年齢性別はさまざまです。でも、アウトドアが好きという共通の思いがあるので、よく話をしながらビジョンを共有し、一緒に進んでいきたいと思っています。

 

――どんなショップにしていきたいですか。

 

:「信頼と技術を売る山とスキーの専門店」という先代が掲げた店の看板を入口に出しています。そこはブレることなく、一番のウェイトを置いてしっかり前向きにいきたいと思います。ただし、堅苦しい言葉だけではなくて、いかに自分も自然を楽しむか。それが接客にもつながるし、スタッフも楽しく働ける。それが僕の思うショップであり、まあ、一番の遊び人の集団でありたいな、というとこですかね。


出演者インタビュー2・・・・・・・・・・・・・
田村友樹(ラリーグラス・スタッフ)

福岡市生まれ。大学卒業後、都内での商社勤務を経て、東日本大震災を機に福岡に戻ってセレクトショップを経営。ラリーグラス入社後はオールラウンドなアウトドアアクティビティの魅力に触れ、現在、ほとんどの休日をフィールドで過ごしている。


朝練? 何が始まるんだ?

――早朝クライミングのことを教えてください。

 

田村:あれはいつだったか。僕が入社してまだ間もない頃、岩登りはやったことなかったのですが、社長のほうから「ちょっと朝練行くか」と……。朝練? 何が始まるだ? と。「クライミングをそろそろやらんといかんよ、田村君」「あ〜、やりますやります」ということで連れて行かれたのが最初です。

――「朝練」は頻繁に開催しているんですか。

 

田村:それほどでもありません。里山なので夏は猛暑ですし、手に汗をかかない春先と秋口に数回くらい。「よし、そろそろ行きますか」と、思い出したように社長が言い出します。なので、ぜんぜんクライミングが上手にならないんですよね。

 

――いつも駆け下りて帰るのですか。

 

田村:店の開店時間が決まっているので、最後は駆け足で降りていくことになります。やっぱり、楽しくなると時間を忘れますよね。ついつい、やり過ぎちゃう。でも、遅刻したことは一度もないんです。今日こそヤバイぞって本気で駆け下りて、なんとか945分にタイムカードを押したこともあります。店のオープンが10時なので(笑)。

 

 

――クライミングの楽しさってなんですか。

 

田村:僕はまだ正直言ってぜんぜんわかってないのですが、でも、日々の山歩きとか、山を走ったり、キャンプをしたりするのとは違って、ちょっとヒリッとする瞬間があるので、それを感じられるのが自分にとってはちょっとしたスパイス、楽しみかなと思います。

――クライミングジムには行きませんか。

 

田村:それがですね、近くにクライミングジムがあるので行きたいとは思っているんですが、やりたいことが多すぎて後回しになっている感はあります。

 

――なにが忙しいのですか。

 

田村:山を歩いて、山を走って、キャンプして、最近はパックラフトで川を下ったりしています。それに釣りもやりますし、冬はスキーも勉強中、夏は沢登りもやらなくちゃいけない(笑)。なので、やりたいことがいろいろと多すぎるのです。

 

――そのなかで、どれが一番ですか。

 

田村:それが僕の悩みでもあるのですが、どれが一番とも言えない。いろいろなことに興味が向いて、自分の好奇心の赴くままに手を出しているのが現状です。それがすごく楽しいんですよ。一つのことを極めるという性格ではないのかな。

 

――それっていいことだと思いますよ。

 

田村:本当ですか? もしかしたら、一番楽しいことを探している段階なのかもしれません。でも、フィールドも職場も、これだけの環境にいるからこそ、だとも思っています。


アウトドアで遊ぶ魅力を知って人生が豊かになった

――ラリーグラスに入社したきっかけは?

 

田村20代の頃は会社勤めからアパレルや雑貨のセレクトショップをやったりしていたのですが、30代になったのを機に、もう一度、自分が好きなことをやりたいと思ったときに、ふらりとラリーグラスに行ったら、スタッフ募集という張り紙を見つけた。それがきかっけです。福岡でアウトドアショップといえばラリーグラスなので、店に対する憧れのようなものもありました。

 

――それまでアウトドア経験はあったのですか。

 

田村:アウトドアでバリバリに遊んでいた人間ではなかったのですが、子どもの頃から椎名誠さんとか、野田知佑さん、星野道夫さんの本を読むのが大好きで、アウトドアで遊んでいる大人に対する憧れがありました。入社前は山登りといってもメジャーな山や富士山に登ったり、野外フェスでテントで寝たりとその程度でした。

 

――ラリーグラスに入ってからはどんなアクティビティを?

 

田村:まずはしっかり山登りをやるようになり、次いで山を走るようになる。そうすると自分の体力が足りないことがわかってくるから、日頃から街でも走るようになる。そうやって自分の体力に余裕が出てくると、遊びの幅が少しずつ広がってくる。その繰り返しですね。

――アウトドアショップに勤務して良かったことは。

 

田村人生の遊び方、楽しみ方を教えていただき、それを今、実践できていることです。自然のなかに入って、自分で自分をコントロールしながら楽しめるようになったことは大きいです。自分の人生が豊かになりました。

 

――アウトドアの遊びの種類が増えると、道具がどんどん増えていきますよね。

 

田村:それが意外とそうでもないんです。僕の場合、交通費に費やす割合が多くて、ギアやウェアにまでお金が回らないというのが正直なところです。仕事柄、僕らは割引で道具を買えますし、欲しい道具はたくさんあります。でも、山に行く交通費で消えていくので、ぜんぜん道具は持っていません。だいたい、周平さんや店のスタッフのお下がりばかりです。「新しいウェアを買ってください」とお客さんに勧める立場なのですが、自分ではなかなか……。


――道具よりもフィールドで過ごす時間が大事ということなので、それはリアルなアウトドア好きという証明ですね。そのほうが店員としての信頼感が増しますし、本当にフィールドで必要な道具やウェアをすすめてくれそうな気がします。

田村:そこはウチの店長がよく言うのですが、「自分の家族に販売する気持ちで接客しなさい」と。売りたいモノを売るのではなく、自分の大事な人が必要とするモノを誠実におすすめするという気持ち。そこを大事に日頃から接客するようにしています。

 

――これから行きたい山は結構あるんじゃないですか?

 

田村:いっぱいありますよ。まだまだぜんぜん行けていないし、北アルプスも東北も北海道も行ってみたい。あとは、アジアの山ですね。台湾にも香港にもマレーシアにも登りたい山があるから、そっちもいいなぁ、と思っている今日この頃です。

ラリーグラス

1976年創業。「信頼と技術を売る山とスキーの専門店」というモットーを掲げ、物を売るだけではなく、福岡のアウトドアカルチャーを長年支え続けてきた老舗プロショップ。登山とスキーのみならず、トレイルラン、クライミング、キャンプなどのギアも充実しており、それぞれのアクティビティに精通するスタッフがじっくりと対応してくれる。

 

住所:福岡市中央区大名2-2-46

営業時間:月~土10:0020:00/日曜・祝日10:0019:00

定休日:毎週火曜日、1231日~12

アクセス:福岡市地下鉄空港線赤坂駅より徒歩約5

Backyard Vol.7 九州編
Part.2

おふたりの福岡近郊での朝練クライミングに密着。ラリーグラス流の日常的な山の楽しみ方、さらにお店の歴史や大事にしていることなどを教えてもらいました

協力:ラリーグラス 大名店
写真:武部努龍
テキスト:寺倉 力
映像:井上卓郎(Happy Dayz Productions
制作:牛田浩一(B.O.W
企画:アークテリクス

Part 2